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土壌汚染事例集Q3:汚染濃度が再上昇するのか!?

Q3(原位置揚水リバウンド汚染問題):原位置揚水浄化中にむしろ地下水汚染濃度が高くなるなんて、そんなことがあり得るのでしょうか!?

 操業稼働中の生産工場の構内で、原位置での揚水浄化工事に着手して3年目に入りました。その間、工場の担当社員を付けて地下水浄化実績の経過を観察モニタリングしてきました。

 最初の1年目はモニタリング井戸の観測数値は順調に低減していき、2年間でほとんど浄化工事は完了するかの良い傾向にありました。ところが、2年目の後半になってからは、むしろ、有害物質の観測数値は徐々に上がり始めました。

 浄化対策をしている内にむしろ汚染濃度が高くなるはずはあり得ないと考えて、濃度上昇などは単なる偶然であり、また低減するであろうと考えていました。当初は浄化完了の目標年を3年と考えて取り組んで来たのですが、その3年目に入ってからは、むしろ汚染濃度が高止まりする傾向にあります。

 一体、地中で何が起きているのでしょうか。その原因はどこにあるのでしょうか。浄化対策工事を行っている間に、汚染濃度が高くなることなどあり得るのでしょうか。

 対策工事計画の何が間違っていたのでしょうか。また、今後どのような施策を施せば良いのでしょうか。

A 原位置浄化中や、浄化事業の終了後のモニタリング中に、地下水や土壌の分析を行うと、分析数値が下降するどころか、むしろある時点を境に上昇してしまったという現象は、件数は少ないながらも時折みられます。

揚水浄化を開始して最初の1年ほどは、目覚ましく汚染濃度の低下が見られて浄化効果は歴然の結果がでる傾向にあります。やがて、汚染濃度は浄化目標値を達成して関係者間では安堵感が広がり2年目ころには終了宣言の準備に入ったりします。そのような時期に、モニタリング井戸の汚染濃度が高騰して来るのですから”気持ちの悪い地中からのメッセージ”に大きな衝撃を受けることになります。

地下水の汚染測定数値の「再上昇現象(リバウンド)」が発生しますと、もうすぐ浄化工事も完了することかと待ちわびていた関係者にとっては逆現象の出現に心理的な大問題となります。

再上昇現象には幾つかの原因が考えられますが、最も多いのは次のような現象です。

①揚水作業を開始した当初は、近傍にあった有害物質が揚水して回収されますから高濃度の分析数値が容易に検出されます。やがて揚水井戸から離れた位置にある有害物質が土粒子の間の間隙を伝って地下水に乗って移動して来るようになりますが、そのころには、揚水井戸周辺の清浄な地下水も満遍なく集水することになるので、揚水は有害物質を周辺の清浄地下水によって混合希釈された汚染水となって地上に回収されることになります。

②ある程度の期間、揚水を継続していると上記のような現象が起きて来るので、地下水中の汚染濃度は着実に順調に低減するという分析結果になる傾向にあります。

③やがて、地下水環境基準を下回る分析結果が続けば、揚水量を減らしたり、揚水を中止したりして様子をみることになります。その間、有害物質は粛々と地下水流に乗って上流側から下流側の揚水井戸周辺に流下し続けて、当該井戸周辺の土壌を汚染し地下水汚染地となることがあります。

④再上昇現象の次の原因は、近傍の未発見であった高濃度汚染源の存在です。土壌汚染調査は10mx10mサイズの単位区画を最小単位として土壌調査する手法ですが、現地の土壌汚染の70~80%を調査把握できることを前提に設定されたものであり、全ての汚染源を突き止めることは容易ではありません。

⑤近傍の未発見汚染土壌の高濃度汚染部から、揚水作業により発生した地下水位の動水勾配により汚染物質が、揚水井戸に向かって移動してくることがあります。継続的に揚水をすることによって、遅ればせながら揚水井戸に達した汚染物質は、やがて汚染の再上昇現象として分析数値を押し上げることになります。

これらのことから、揚水浄化工法の採用と揚水量設計については、再上昇現象の可能性も視野にいれながら、慎重に設計かつ揚水量と検出濃度と経過時間を注意深く観察しながら、揚水の結果を踏まえた施策の構築がポイントです。

また、揚水工法の採用にあたっては、何時まで掛かって完全浄化をゴールとするのか、汚染拡大防止を目的にするのかという設計思想の設定が大切になります。

揚水工法を使って筆者は、汚染拡大防止策として「地下水位計測モニタリングシステムを搭載した動水勾配コントロールが可能な少量揚水工法」を適用することを推奨しています。近年は、水位モニタリングの計測システムが容易に調達できる時代になってきましたので、現実的な施策となっています。

(鈴木経営工学コンサルタント 相談役 鈴木茂)

 

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