Q4(相隣もらい汚染問題):高台にある隣地工場からの地中漏洩による「もらい汚染」だと考えていますが、隣地工場は平然として全く気付いていない様子なので言い出しにくい状況です。良い方法はあるのでしょうか?
弊社工場は工業団地の中腹にあり、特定有害物質を使用しながら生産活動を行ってきました。弊社工場の上流側の隣地には弊社とは異なる有害物質を使用している工場が操業中です。構内に設けた地下水のモニタリング井戸の水質検査を行っていますが、近年5年ほど前から、弊社では使用履歴の無い特定有害物質が地下水環境基準以下ですが検出されるようになってきました。
2年前には、隣地との敷地境界線付近のモニタリング井戸で、遂に地下水環境基準を超過する汚染が検出されました。弊社敷地への汚染流入による「もらい汚染」に違いないと弊社の社内では結論付けてはいます。
当社が汚染に気付いてから最早や5年にもなるのですが、地元の企業組合の会合等で隣地企業の幹部に会っても全員が平然としていて汚染漏洩のことなど全く気が付いていない様子です。・・その旨隣地工場に抗議したいと考えていますが、微妙な相隣関係がこれまでも何件かあったことからも、果たしてどのように対応するのが最良の施策か思案中です。
このまま何もしない訳にはいかないものの、もし「もらい汚染」でなかったら隣地との関係が更に悪くなるとも考えられ、尚更に踏み切れないものがあります。
A 当該案件では、高台(上流)側の隣地から隣地工場で使用している特定有害物質が当社事業地内の地下水モニタリング井戸から検出されたこと、しかも隣地との敷地境界線付近で地下水環境基準を超過した濃度が検出されるに至ったこと、山岳部から河川への地下水の流れを広域に俯瞰すると、隣地の方が下流側に位置していること等から、隣地からの「もらい汚染」である可能性は高いといえます。
隣地工場からの「もらい汚染」の疑いを隣地工場に申し出るにあたって、隣地工場の経営幹部全員が平然としていて不遜に見える点については、次のように考えるべきです。
①土壌汚染は、「非意図的汚染、非人為的汚染」と言われています。誰かが意図を持って汚染物質を地中に放置したことによって発生した汚染では無く、汚染の拡散に人間が介在しないのが特徴です。
②一方、土壌汚染問題と同様に地中で起きる環境問題として、埋設廃棄物問題がありますが、両者は似て非なるものです。埋設廃棄物問題は、「意図的汚染、人為的汚染」であり、だれかが意図を持って廃棄物を埋めたことによって発生する地中環境問題です。
③このようなことから、隣地工場の幹部が地中汚染を全く知らなくても土壌・地下水調査を行わない限りは地中汚染を知ることはありません。したがって、隣地工場の幹部が平然としていてもそれは当然と言えます。当社側でも、モニタリング井戸の地下水分析をしていなければ分からなかったはずです。
④したがって、隣地工場に地中汚染の懸念を伝えることには問題は起きないと思います。日頃良好な関係にある場合には、むしろもっと早く教えてくれれば良かったと言われるかもしれません。
⑤日頃の関係が微妙な様ですから、この場合には慎重な対処が必要になります。最良な方法は、隣地に当該汚染の懸念を申し出る際に、事前に文書にてその旨を通知して、地下水モニタリングの分析結果等も添付して事前に送っておくことです。
⑥面談当日は、環境問題の専門家も動向するようにして汚染の状況を説明してもらうことにして、隣地間の1対1の対立構図を回避してクッションとして専門家の説明を介するのが最良の方法と思います。
⑦隣地への要望は、まず隣地用地でも汚染土壌・地下水調査を自ら実施してもらい状況を把握することから薦めるのが肝要です。当社が隣地に乗り込んで土壌地下水調査を行う提案や、当社側の被害規模等々への言及はこの時点では、最も慎まなければならない提案です。隣地幹部にとっては、ほとんど「寝耳に水」の状態で、自社が汚染源であると疑われていることを初めて認識している状態ですから当然です。
このような配慮をして望めば、当該事案のスタートは順調に切れると思います。いずれにしても、相隣土壌汚染問題の解決は法的係争にも成り易い案件ですから、専門家との共同対応の体制が望まれます。
(鈴木経営工学コンサルタント 相談役 鈴木茂)